天竺浪人『凌鬼の刻』
エロ漫画を買いに仕事帰りにとらのあなに寄ったらレジに長蛇の列が出来ていて、「あぁ年始恒例の光景だなぁ」と思いました。おかげで、一本電車乗り遅れてしまいましたよ(笑。
さて本日は、天竺浪人先生の『凌鬼の刻』(マガジン・マガジン)のへたレビューです。昨年に出た前単行本のレビューもよろしければご参照下さい。
一人の少女の目を通じて描き出す、鬼気迫った狂気と憎悪の情景が凄まじい作品です。前作に続き、読んでいて震えました。
収録作は、クールな性格と明晰な頭脳を持つ美少女が人格破綻者で引きこもりの兄に人格を否定され体を汚され続ける中、親友の少女がその鬼畜な兄に告白してしまうというストーリーの長編作「Archaic Angel」第1話〜11話(←参照 第3話「憎悪の供物」より)。今単行本では完結せず次巻に続きます。あと、恒例の作者近況なあとがき漫画もアリ。1話当りのページ数は16〜26P(平均19P弱)とさほど多くないのですが、長編作としての読み応えは相当に強く重い印象があります。
【圧倒的に力強い筆致で描くドス黒いストーリー】
内容は精神の弱さと様々な小さな不幸の蓄積によって心を完全に歪ませてしまった兄が、近いからこそ憎悪の対象となる妹とその親友に呪の如く歪んだ欲望を叩き付ける様を禍々しく描く大変暗いものです。
兄の底知れない狂気に対し、閉塞した状況下で体こそ汚されながら決して友愛の精神や人としての矜持を忘れなかった少女の(←参照 汚されようとも彼女は間違いなく“天使” 第3話「憎悪の供物」より)冷静な視線は物語の悲劇性を敢えて強調しないものの、その研ぎ澄まされた一種の静けさが作品に圧倒的な凄味を付与しているのは確かです。決して救いの手が差し伸ばされることのない乾いた現実感の中、倒錯の快楽に身を蝕まれ自身を“汚物”と冷徹に蔑む少女のあまりの悲壮さ、彼女が“天使”の様だと心から大事にしている親友すら兄の狂気と憎悪の連鎖に絡め取られる無慈悲さ、その全てを以て常に読者に対して常に畳みかけ、その救われない悲劇で胸を抉ってきます。
また、1話ごとにプロットが丁寧に練られており、各話の積み重ねによって長編作としての流れを形成し、作品全体に漲る緊張感が読者を強く引き付けて離さないという、極めて高いシナリオ展開力はただただ圧巻。
その陰鬱なシナリオは非常に重いのですが、シナリオ展開の豊かさが長編としての長さをほとんど感じさせず、これまた絶望的な告白で急転直下の展開を見せる第11話ラストまで一気に読まされました。
【痛烈な現代社会への風刺】
お互いに歪んでしまった兄妹が抱える静謐な狂気が作品全体を支配するダークな凌辱系エロ漫画ですが、そこに奥深さを生んでいるのが天竺先生らしい現代社会に対する痛烈な風刺です。
アイドル大好きな天竺先生らしく、アイドルという現代社会における偶像が、如何に身勝手な欲望に翻弄され、その人格を否定されているかということを所々に挿入してきます。
その空しい有様と兄にとって自分自身が“ただ性器であるだけ”というヒロインの認識は密接に関連しており(←参照 この絵の凄さ 第5話「貌もなく性器だけ」より)、人間にしろ物事にしろ外面だけで判断し、様々なモノの内部に踏み込んでいこうとしない、スタンドアローンな個人で埋め尽くされた社会の縮図がそこには存在します。兄が歪んでしまった原因である学校でのイジメや家族との不和さえ、その社会が生んだ暗部であることもこの物語の悲劇性を一層高めています。
個人的には、(写真・映像を)“撮る”という一種の偶像の形成が秘める非人間性を描き出しつつ、そこに真逆の温かい人間性を込めることが出来る金子君が今後どういう役割を果たすのかが楽しみだなぁと。
【生々しさのあるエロスが魅力】
ヒロイン二人はクールな性格の真理と明るく朗らかな性格の親友・友美で、好対照なキャラ造形の組み合わせには華やかさがあります。真理の素っ気ない態度がちょっとユーモラスに描かれていることも多く、ダウナーなシナリオにちょっとアクセントを加えていました。
ボディデザインは割合現実的であり、萌えとか分かり易い艶とかとはあまり縁のないタイプではありますが、清濁が混じり合った現実的なエロスが色濃く香る絵柄は相変わらず魅力的。
絡み合う体のダイナミックな動きで激しさを演出することはほぼ無く、それぞれに画としての重みがあるコマを丁寧に重ねていくことでエロの流れを力強く見せます。
性感の光悦、苦痛、羞恥、狂気などさまざまな情念が練り込まれた女性の表情の表現力は非常に高く、エロシーンでの煽情性を増しています(←参照 第8話「トラウマになりたい」より)。個人的にはフェラシーンでかなりこの表情の良さが活きているなと思います。分量的にはけっこうページ数も割かれていますし、エロの攻撃的な演出も冴えていますが、その絶望的で狂気と憎悪に満ちたセックスは抜きに使うにはかなりヘビィであるのは確かです。
彼女たちの痴態がエロティックであることも含めて、この物語は間違うことなき悲劇だと思うのです。
正直、年の頭から物凄い作品に出合ったことが僕は嬉しくて堪りません。正直グラビアに興味がないので「ウォーB組」という雑誌は読んだことなかったのですが、ホント読んでいればよかったと思いましたよ。
伝染する狂気、巡りあう憎悪、それらに翻弄される人間の哀しみを、血潮を沸騰させる程熱く、背筋を凍らせる程冷たく描くベテランの力量を是非是非味わって欲しい1作です。エロ漫画にエロ以外のモノも求めている方に超お勧め!
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