世棄犬『DOGMAN』
こう、始めてから日の浅いブログなもので、何冊も単行本を出されている先生の新刊を紹介する時に、過去作も自分でレビューしてれば引用できるのにと歯がゆく思うことも多いです。ということもあって、今回は世棄犬先生の新刊が出る前に過去作レビューがしたいという意欲と司書房ありがとう企画もやっているタイミングがうまく合致しました。
本日は司書房ありがとう企画第4弾ということで、世棄犬先生の初単行本『DOGMAN』(司書房)のへたレビューです。12年前の作品ですが、今でも光り輝いている宝物の一つです。
エロがサブカルでもあった時代の空気を確固として纏い、エロを含んだ多様な物語を味わい深く魅せる傑作短編集です。
収録作は、司書房のドルフィンおよびラッツに掲載された短編9作+後書きも兼ねるおまけ漫画「よい子の為のHマンガの描き方講座」(2P)。1作当りのページ数は16〜24P(平均18P弱)とあまり多くありません。というか、司書房さんの作品で1話・作のボリューム感の強い作品ってあまり無かったかもです。
最新刊(その内レビュー描きます)は、まぁ、強烈な毒気と皮肉を軽妙なギャグセンスと混ぜ合わせた怪作でしたが、この初単行本当時はまだ普通のスタイルでした。
収録されている短編9作の作風は非常にバラエティに富んでおり、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような感があります。
美人な新聞勧誘員によるエロエロな契約獲得作戦をお馬鹿ギャグで描く短編「勧誘のシオリ」、圧倒的な科学力を魅せ付けるエイリアン達の威圧感を存分に魅せ付け(←参照 短編「HYPER DIMENSION CONTACT」より)「おぉ、本格SFエロ漫画!」と思わせながらヌルーイギャグ展開を繰り広げラストはまさかのアニパロ(マ○ロス)という短編「HYPER DIMENSION CONTACT」、自分の体の中に爆弾を仕込んだ犯人とそれを追いかける女刑事達のスタイリッシュでエロエロな犯罪劇+とんでもないギャグオチな短編「SPEED!!」など、序盤は小気味の良いコメディを楽しませる作品で固められています。テンションの高さはありますが、突き抜けた勢いやシュールさで押し切るタイプのギャグではなく、読者の読みを軽快に翻弄する技巧で笑わせるタイプであり、それ故に短編「HYPER DIMENSION CONTACT」や「Childhood's End」ではシリアス成分とコミカルさが高い次元で融合しています。
同性愛の関係にある美男子二人とその従妹の美少女をちょっぴりコミカルに描きつつ、互いの恋愛感情を素敵に紡ぎ、そして結びつけ、男女という垣根を乗り越えるかのような耽美で澄んだ3人の交わり合いを描く短編「Childhood's End」より後の作品は、世棄犬先生の作家性を存分に楽しませてくれるシリアス系が中心。
劇画タッチの重い絵柄と倒錯性と攻撃性を高める構成が光る女教師調教モノ「愛玩婦」はオリジナリティーという点ではそこまでではないですが、その他の作品はスケールの大きい純正SFや剣と魔法のファンタジーを絡めたり、逆に話こそ小規模ながら男女の想いを印象的に描きあげたりと、2008年現在になっても燦然と輝く豊かな漫画センスを示します。
生殖という性の一つの本義をテーマとして掲げ(←参照 短編「Artificial Intension」より)、環境汚染により生殖能力を喪失しつつある人類とその原因を作り“人類”という種を“人工繁殖”させようとする宇宙人との様々な欲望、愛、意図を緻密に入れ込み、溜息が出るほど寂寞としたラストを迎える短編「Artificial Intension」は作者らしい皮肉のエッセンスも含めて素晴らしい作品。落ちぶれた画家と売春婦まがいの行為に耽るホステスの夫婦と大家の娘の3名が織りなすデカダンスな日々とその中で一瞬輝く生の感情を描く短編「慢性破綻」も大好き。
シリアス系では全般的に言って、しっかりと練られている設定・プロットをあまり多くないページ数の中に納め切れていない感もあって、人によっては説明不足という印象を持たれるかもしれません。
ただ、その足りない部分に想像を走らせる取っ掛かりはしっかりと作中に散りばめられており、明示されていない部分に思いを巡らすことも含めて面白い作品群だと思います。
おまけ漫画が自虐的にネタにされていますが、背景も含めてしっかりと描き込むタイプです。短編「慢性破綻」で、金の臭いは皆無ながら貧しさの中で逞しく生きる人々の生活臭が立ち込める雑然とした夏の街の背景などは実に素晴らしいです。
また、短編「紅い少女」(←参照)では上記とは真逆に男性が見る“想いの幻影”の風景を、経過した時間の蓄積を暗示するかのような雪原として背景を白く染め上げる手法など、抜群に印象的な空間を創出しています。この短編はラスト1コマの卓越したアイディア力(効果音と背景に注目されたし)も光っています。特にシリアス系ではそうなのですが、どの作品も抜き物件として作っている印象が薄く、エロに関してはあまり評価できないのは確かです。
表紙絵も代表的な例でありますが、洋ピンを観た時に感じるような、しなやかで適度に筋肉の存在を窺わせるスタイリッシュな女体のエロスはかなり扇情的(←参照 短編「慢性破綻」より)ではありますが、シーンをぶつ切りにする構成やそもそもの分量の乏しさが実用性を殺しています。死ぬほどでかい白ベタ消しもかなりネックになるでしょう。「HYPER DIMENSION CONTACT」のヒロインさんを除き全員成人女性であり、スレンダーなナイスバディですがエロ漫画的な分かり易いセックスアピールはあまりありません。萌え要素なぞ欠片もありませんので、萌えエロにずっと慣れ親しんできた方にはちょっとシンドイかもしれません。
例え懐古野郎と言われようとも、管理人はこの時の絵柄の方が好きなんですけどね。エロ的には短編「SPEED!!」の女刑事さんがお気に入り、エロシーンかなり短いけど(泣。
本作は抜き物件ではないかもしれませんが、間違うことなき“エロ漫画”です。サブカル系という区分をしてもよいのですが、作品に込められた皮肉さやそれに相反するような素直さ、軽妙なお馬鹿さなどがそういった安易なジャンル分けを偏屈にも拒んでいるようにも僕は感じます。エロもある漫画を読みたい貴兄にお勧めですよ。
なお、この短編作にいくつか作品を加え、さらに消しも甘くした「DOGMAN SCRAP」がコアマガジン様から出ているので、読んでみたい方はより手に入れやすいであろうコアマガ版を探してみて下さい。
まあ、こちらを選んだのは企画としての必要性もさることながら、この作品と出合った時の思い出から脱せない管理人の偏狭な愛情故と思って頂ければこれ幸い。
司書房に心よりの愛と感謝を、そして何も助けることが出来なかった懺悔を込めて
へどばん拝
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