鳴子ハナハル『少女マテリアル』
2008年も半分が終了しました。下半期もエロ漫画との良き出会いを楽しみに過ごしたいものです。そして、下半期初レビューを傑作で始められる幸福に感謝です。
本日は、鳴子ハナハル先生の成年向け初単行本『少女マテリアル』(ワニマガジン社)のへたレビューです。カバー・カバー下・中表紙など装丁がかなり豪華でした。
なお、心動かされすぎたので、本日のレビューはいつもに増して客観性や冷静さを欠いていますが、ご容赦頂くようお願い致します。
丁寧に書き込まれた絵と読み手の心を捕えて離さないドラマの技巧に彩られる、人の性愛、そしてその背後にある感情の豊饒さを描き出す傑作短編集です。
収録作は、様々な思いが錯綜する中2組のカップルが4Pセックスに興じる連作「2/4」「2/4ツヅキ」、許嫁を捨て女中と駆け落ちした名家の長男が父の葬儀に戻った田舎で待ち受ける凌辱劇「蔵」前後編、および短編7作。これにおまけのショートカラー作品(4P)が付きます。
最古作は2002年12月とかなり古く、作画能力の高さは一貫しているものの多少絵柄は変遷しているので、ある程度留意して下さい(←参照 収録作品中最古作 短編「ヒタイ」より)。カラーのページ数は多くはないので期待していた人にはすこし残念かもしれませんが、僕が鳴子先生に期待しているのは白黒絵の巧さとストーリーテリングの能力なので評価には微塵も影響せず。
カラー作品を除き、1作当りのページ数は10〜24Pで標準的。しかし、何回でも読み返したくなる濃密なドラマ展開・心情描写により、腹にたまるヘビィネスが感じられます。
艶やかな黒髪、時々巨乳さんを織り交ぜながらも肉付きの良い下腹部〜太もも故に凸凹に乏しい肢体を持つ少女達は、エロ漫画的なキャッチーさや華々しさから縁遠いものの、日本的な美的センスに満ちており大変魅力的。
そんな少女達と男性達が時に繊細な機微から、時にストレートな力強さで紡いでゆくドラマは高い作画能力・作劇能力によって素晴らしい仕上がりを魅せ付けます。
鬱積された人間の過去の想いを象徴する土蔵を舞台にする「蔵」や、遠くて近き男女の仲を効果的に演出する観覧車のゴンドラを舞台とする「踊る大観覧車」(←参照)、一瞬だけ想いが交錯した対照的な男女を描く「岬まで」の空と地が地平で交わる大草原など、背景として丁寧に描き込まれた舞台装置を効果的にストーリーに絡める巧さは筆舌に尽くし難いものがあります。エロ漫画において性行為は様々な意味合いを持たされます。今単行本において、作中の性行為は登場人物たちのドラマを展開する上で非常に重要な位置づけにあり、数多の想いと意味合いが込められた行為であって、単なる快楽の発生装置でありません。
本作品の大きな特徴は、作品中で描かれるセックスが決して無力ではないが、同時に決して全能でもないということです。
短編「紅い水」や「2/4ツヅキ」、「蔵」などにおいては、例え体を重ね肉の快楽を分かち合おうとも、交り合う二人の心が通じ合うことはありません(←参照 届かぬ男の想い 「紅い水」より)。傑作短編「明日の私にヨロシク」で描かれた様に、若者たちの力強いセックスでさえ通わない心をつなぎ、彼らをハッピーエンドに導くものがあるとするならば、それは性行為それ自体ではなく、そこへ至る生の感情でしかありえないのかもしれません。
それは、無限の多様性を誇る性の魅力とその全能性を賛美するエロ漫画の根底に挑戦するものかもしれませんが、それ故にこの作品群は傑作という称号を冠することが出来ると思うのです。
短編「U.F.O.」の様に割合お気楽なセックスが描かれる作品(ただし、あくまで表面上そう見えるだけです)もありますが、描かれる男女の性愛、そこに込められた思いは本当に多様です。
嫉妬、獣欲、怨嗟、諦観といった暗い感情も、思慕、友情、郷愁、母性といった光り輝く感情も全てが混ざり合ったものとして伝わり、それらは時にあまりに悲しく、時にとてつもなく愛おしく感じます(←参照 女の瞳が湛えるものは 「蔵」後編より)。今単行本に限らず、エロ漫画というジャンルにおいて描かれる性愛は非常に多様です。それはとりもなおさず、その背後にある、人の感情という海が大変に広く深いからに他なりません。
「ここからは太平洋でここからはインド洋」と海を隔てるように、エロ漫画という海を例えば「凌辱系と純愛系」と人為的に分けるのは簡単かもしれません。が、いくら名前を付けて境界線を引こうが大洋はあるがままに大洋であるように、そんな愛のないサブジャンル分けは何の意味もないでしょう。
表面で分断される全ての大洋が実は深海の潮流でつながっているように、エロ漫画に描かれる様々な様式のエロの根底には、ジャンル分けなどという狭量を超越した人間の多様な感情が力強く流れていると僕は思うのです。
その海に漕ぎ出だしたいと思う全てのエロ漫画愛好家、否、全ての漫画愛好家に僕はこの単行本を旅路のお供にして欲しいと願っています。
キャッチコピーの「わたしをつかって」と対比されるように、ラストの初出一覧のイラストで、廃墟の中精液と使用済みコンドームに塗れて横たわる少女が描かれます。
それは、読み手によってその性愛も生の感情も嬲りつくされた、正に“使われた少女”の姿なのでしょう。
以前も書きましたが、ジャンルを問わず読み手は本質的に残酷です。ただ、その残酷さの自覚を持ちながらも、その先にある様々な水準での“人間の素晴らしさ”にそれ以上の価値を求めて僕はエロ漫画を読み続けていると信じたいのです。
あまりに素敵な作品集だったので、死ぬほど恥ずかしいセリフを吐いて、今作品への賛辞とレビューの終りに代えさせて頂きたい。
I Love エロ漫画! Thank you, エロ漫画! May this masterpiece with you all!
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