関谷あさみ『YOUR DOG』
へっぽことはいえ一レビュアーとして感じるのは、凄く好きになった作品はばんばんレビューの筆が進むか、ちっとも進まないかのどちらかだなということです。今日のはどちらかというと後者です。
そんな前口上はともかくとして、本日は関谷あさみ先生の『YOUR DOG』(茜新社)のへたレビューです。
無味乾燥な性欲・金銭欲と買い/買われる人間のウェットな情動が混然となる援助交際という舞台装置を用い、登場人物達の心情と性行為を丁寧に描いた作品です。
収録作は、疎外感に苛まれながら生きる一人の少女(←参照 第1話より)が、彼女を違法DVDの出演者として”買った”男にふとした切っ掛けで好意を抱いたことで始まる長編「YOUR DOG」全9話+後日談7P。加筆修正があるために正確なデータではないですが、目次から計算すると1話当りのページ数は12〜30Pで平均23P強。
ドラマ性はそれほど強いわけではありませんが、後悔と罪悪感に塗れた人生を過ごしている男と辛い孤独感とすがりつく様な恋心を持つ少女の印象的な心理描写によって、実に読ませる作品であり読後の満足感は帯の訴求文の通り◎。
家庭にも学校にも居場所のない中学生少女がある日、声を掛けてきた男に”買われ”ハメ撮りAVに出演し、処女を失います。
そこには男性の強要や少女の確固とした恋心も、もっといえば何らの必然性すらなく、どこか乾いた印象すらあります。
ヒロインの歩ちゃんの他にも、お金と享楽を目的に援助交際という名の売春をする少女たちが登場するのもその印象を強めます(←参照 第3話より)。後述するように高い実用性を誇るエロシーンでの少女の乱れっぷりに歓喜しつつも、一方の主人公である男が繰り返し呟く罪悪感と易々と売春行為に身を委ねる少女への違和感を個人的には感じました。そこで描かれる性行為は如何にエロチックで生々しかろうと、どこか空虚な行為です。諦観に心が麻痺した男性とその男性に言わば救いを求める少女の気持ちがすれ違うセックスは微かに寂しさすら漂います。
しかし、終盤に少女が生の感情を男性にぶつけることで、他者を求め続けてきた二人の心が寄り添い結ばれて行きます。
序盤の一見快楽に満ちた初体験を実際のところは恐怖と嫌悪に満ちた行為だったとして(まるでDVDのように)”再生”しながらも(←参照 第8話より)それを否定も肯定もせずに乗り越え、互いを理解できた二人が体を重ねるシーンの充足感・安堵感は心に沁み渡ります。万事ハッピーになるわけではないものの、二人が寄り添って未来へと”歩み”始めるラストは気持ちのよいものです。
洗練された透明感とやぼったさが同居する絵柄・キャラデザで描かれるローティーン少女と絡み合うエロシーンの実用性はかなり高く感じました。
起伏に乏しいボディやツルツルのお股そしてあどけない童顔など、少女性を強調するパーツが汗やら涙やら精液に塗れる様は実に背徳的(←参照 第2話より)。エロ漫画に多用される大仰な台詞や喘ぎ声をほとんど用いず、荒い息使いと途切れ途切れの嬌声が演出する性行為描写の落ち着いた緊迫感は読み手の没入度を高めてくれてました。
AV撮影であるという設定を上手に活かしており、ねっとりとした責めや読む(観る)人間の興奮を喚起するような意図的な演出も、少女性とのミスマッチ感があって大変よし。
ロリOKならば御飯が大層おいしく食べられるのは請け合います。
別に善人を気取るつもりはないのですが、援助交際は(そもそも違法であることを差し引いても)許される行為ではないと考えています。
ただ、当然買う側の人間、それがまかり通る社会システムに罪はありますが、買われる少女たちは単に”大人の性欲に喰い物にされる「被害者」”ではないと思うのです。
今単行本では、この禁じられた遊戯に恋愛感情または金銭欲・性欲から飛び込んだ少女たちが描かれます。それは幼さや無知故なのかもしれませんが、それでも彼女たちなりの感情や打算や倫理観は確かに存在するのです。
その社会的な善悪はともかくとして、単に少女たちを「被害者」または「愚者」というカテゴリに入れる姿勢には、彼女たちなりの人格に踏み込む決意があまり感じ取れないのです。
少女たちの美しくも醜くもある生きた感情を認めなければ、物語序盤の主人公の男性のように結局は相手の気持ちに気付かないままで終わってしまうのではないかと思うのです。
閑話休題。
訴求文に偽りなく、読んで面白く抜いて嬉しい作品です。過剰なドラマ性や激しい性行為を求めるのは避けた方がよいですが、一見淡々とされど濃密に進行するエロとシナリオが楽しめますよ。
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