けんたろう『サムライギルド〜血風録〜』
結局3連休は1回も休めませんでした。ちぇっ。まぁ、今週の土日は国内最大のメタルフェスをがっつり楽しむ予定なのでそれを楽しみに頑張ります。今年のラウパーが魅力薄(特に2日目)なのは置いとくとして、ですけど。
さて本日は司書房ありがとう企画の第2弾ということで、けんたろう先生の『サムライギルド〜血風録〜』(司書房)のへたレビューをば。先生の最新刊のレビューもご参照あれ。
ユニークなアイディアを盛り込むシナリオの構成力と男女ともにスタイリッシュに仕上げるクールなキャラデザインという、けんたろう先生の大きな魅力が存分に楽しめる作品です。
収録作は、黒船来航に揺れる幕末の日本を舞台に長崎で出会った4名の男女が町に溢れる浪人に仕事を斡旋する浪人寄合組(サムライギルド)を結成するタイトル長編作「サムライギルド〜血風録〜」全6話+番外短編1作(←参照 第2話「合従連衡」より)、および両親の倒錯的な性生活を幼少期に垣間見てしまった青年がトラウマティックな獣欲によって自分の妹を毒牙にかけてしまう連作「蜘蛛spider web」前後編。1話当りのページ数は16〜26P(平均20P弱)と普通のボリュームですが、丁寧に構築されたプロットをテンポよく読ませる手法が見事に成功している作品で大変気持ちの良い読書感があります。長編作としても十分なボリュームだとも思いますし。
タイトル長編は、長州藩を脱藩した豪放な浪人登仙、実は幕府の隠密であるクールな剣士風月、日英ハーフの元通訳メリッサ、素敵に守銭奴なメガネ娘一会ちゃんの4人が幕末の世を逞しく生きる時代劇。
しっかりとリアリティを持たされた時代背景の設定、実在の人物およびそのエピソードを作中に入れ込む野心的な構成(←参照 渡米を望む吉田松陰と拒むペリー提督 第3話「酒池肉林」より)が認められるエロ漫画では珍しい本格派のエロ時代劇です。とは言え、歴史という既に確固として存在するモノを扱いながらもストーリーに硬直感は全くなく、瑞々しい友情と恋愛によって思想や国勢から解き放たれた若者たちがエネルギッシュに生きていこうとする姿がとても活き活きとして魅力的です。
最終話のサブタイトル「飛耳長目」から推察される通りに、吉田松陰という人物をキーマンとして登場させ、その実直な人柄と憂国の思想を丁寧に描き上げています。
しかし、最終話において史実通りに処刑される吉田を描いたコマの後、明治の世を生きる若者4人の再開を対比的に描き、「死んで名を残すより 生きていれば希望は続くのだからと」とまとめたラストは、変革の時代を生き抜いた無名の若者達にこそ祝福を与える清々しさがあって物語を魅力的に締めています。
全体的にやや駆け足気味であり、風月が幕府の隠密であることがギルドを仕切る一会ちゃんに露見するシーンといった結構重要な展開ポイントでの演出の甘さがあるなど、もうちょっとじっくり(具体的には『CROW』の様に単行本フルで)長編作でやって欲しかったとは思います。
ただ、ストーリー展開そのもの以上に男性キャラ(特に登仙)を含めた登場人物の魅力が作品の評価に寄与する所が大きく、テンポの良さも相まってあまりシナリオの不備を感じさせません。
女性の華やかさと澄んだ色気、男性のカッコよさを引き出すスタイリッシュな絵柄(←参照 最終話「飛耳長目」より)はけんたろう先生のアーティスティックなセンスが光る強い魅力の一つ。登場人物達を下衆は下衆に、奸物は奸物に、豪傑は豪傑にしっかりとキャラを描き分ける技量は一級品です。その端正な絵柄を時に大胆に崩しさえする勢いの良い表情変化の妙(特に一会ちゃんの派手な表情変化がラブ)や、時代劇らしく盛り込まれた剣戟によるアクションシーンの派手さなども作品を華やかに彩っています。
背景や衣装の丁寧な描写もよいですが、一会ちゃんの和服がイチゴ柄だったり、黒船の中にプレイメイツなお姉ちゃん達がいたりするのはエロ漫画的にご愛敬(笑。
けんたろう先生の多くの作品と同様にエロシーンを無理なく見せる、というよりは示したいテーマ性やキャラクターの魅力的な立て方にエロが必要となるタイプです。
それ故、作中でのエロシーンはスムーズに導入され、華美な絵柄にも関わらず浮ついた感じは全くしません。最終話のメリッサと登仙が交わるシーンは台詞回しも含めて、シナリオラインと密接に連携させた演出が白眉の出来。
均整の取れた絵柄で魅せる華やかな艶はそれ単体でアドバンテージながら(←参照 乱れる黒髪とかんざしが艶やか 第2話「合従連衡」より)、それと絶妙なバランスを取る、枠線に縛られない伸び伸びとしたコマ単位の絵、意外にえげつない構図がエロシーンの実用性を高めています。エッチな絵でも猥雑な絵でもなく、エロティックな絵が描ける先生というのが(曖昧で申し訳ないが)僕の印象です。
抜き物件としての方向性が強くなく、エロシーンの分量自体もあまり多くないのは残念ですが、女性の官能美がしっかり出ているエロシーンですので実用度が低いわけでは決してありません。
リアル路線とディフォルメ系の中道タイプな女性器描写(なお、陰毛描写アリ)もちゃんと淫靡で、消しもまぁ弱めなのは有り難い所です。
エロ的には第2話に登場するサブキャラの花魁さん(名前不詳)が和装の味付けがばっちりハマっていて個人的には最愛です。あぁ、でも銀髪に和服というメリッサ(表紙絵の娘さん)も捨て難いです。
実は司書房でのけんたろう先生の作品で一番好きなのは処女単行本『蝶美』に収録された「宇宙より愛を込めて」です。
奇抜なアイディアと意外に奥行きのあるテーマ性が初単行本から光っていたことを示す作品でしたが、比較的堅実な作りのこの長編作では、歴史上無名の人物に注目することで普遍的な“生の讃歌”を浮き彫りにする構成の上手さが輝いていました。
ギャグの暴れっぷりや読者をいい意味で置き去りにするエクストリームな展開は他の単行本(『ミガワリ・バディー』など)に劣りますが、司時代のけんたろう先生の屈指の名作だと僕は思っています。
現在はメディアックスのコミック劇ヤバ!にて執筆を続けられていますが、司書房にて培った技術を今後も存分に味合わせて頂くことを期待しつつ、回顧レビューを終わらせて頂きます。
司書房に心よりの愛と感謝を、そして何も助けることが出来なかった懺悔を込めて
へどばん拝
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